災害時、避難生活で気をつけたい感染症(ノロウイルス、インフルエンザ、食中毒)
災害時には、通常の生活環境が崩れ、衛生状態が悪化しやすいため、感染症のリスクが高まります。以下は、災害時に特に気をつけたい感染症の種類です。
1. 水系感染症
水が汚染されやすく、飲料水や食料の確保が難しい場合、以下のような水を介する感染症が増加する恐れがあります。
- コレラ: 汚染された水や食べ物を介して感染する腸管感染症。激しい下痢や脱水症状を引き起こす。
- 赤痢: 細菌やアメーバによる腸管感染症。下痢や血便、発熱が主な症状。
- 腸チフス: サルモネラ菌による感染症で、発熱や腹痛、下痢が特徴。
- ノロウイルス: 感染力が非常に強く、嘔吐や下痢を引き起こす。
- レジオネラ症: 汚染された細かい水滴(エアロゾル)を吸い込むことで感染。
関東大震災(1923年)では、地震や火災で水道や下水道が破壊され、衛生環境が悪化しました結果、コレラや赤痢などの水系感染症が発生しました。特に、避難所などでの衛生環境が整っていない場所で感染が広がりました。
平成23年台風第12号(2011年)では、台風による洪水や土砂崩れで水源が汚染され、赤痢、下痢などの水系感染症が発生しました。また、浸水した温泉や汚染された水を吸い込んだり、エアロゾルを介して感染するレジオネラ症も懸念され、感染防止対策が取られました。
最近は、コレラや赤痢などの深刻な水系感染症は「水系の災害(台風、土砂崩れ、津波)」の時に気をつけた方がいいとされています。
震災なども含め、どの災害でもよく問題になる感染症が「ノロウイルス」です。主に避難所などの共用トイレで感染します。
阪神・淡路大震災(1995年)では、一部の避難所でノロウイルスによる感染性胃腸炎が発生し、下痢や嘔吐を引き起こした例も報告されています。新潟県中越地震(2004)では、長期間の避難生活で感染性胃腸炎(特にノロウイルス)発生が確認されました。東日本大震災(2011年)でも、避難所でノロウイルスによる集団感染が発生しました。下痢や嘔吐を引き起こし、多くの避難者が大変な思いをしました。熊本地震(2016年)でも集団感染が発生し、特に、子供や高齢者が多く被害を受けました。
トイレが十分に整備されていない避難所や、非水洗の仮設トイレ(いわゆる「ボットン式」)では、下痢や嘔吐を伴う感染症(特にノロ)の拡大が深刻な問題となりました。大勢の方が一日中トイレを使っているので、一度感染者が出てしまったら、感染拡大を防ぐことはとても難しいのです。
また、冬季に発生する地震では、避難中の寒さやストレスが体調不良を引き起こしやすく、感染症リスクが高まる傾向があります。
2. 呼吸器系感染症
災害時には避難所などで人が密集しやすく、空気を介した感染症が広がりやすくなります。
- インフルエンザ: 冬季に多く、避難所での集団生活により感染が拡大しやすい。
- 風邪や肺炎: 特に免疫力が低下している高齢者や乳幼児に注意が必要。
- 結核: 長期間の密集した空間で感染が広がりやすく、咳や痰が症状。
阪神・淡路大震災(1995年)では、避難所生活が長期化し、多くの人が密集した空間で過ごすことになりました。これにより、特に冬季にインフルエンザや風邪が蔓延しやすい環境が生まれ、高齢者を中心に感染症のリスクが高まりました。
東日本大震災(2011年)避難所の生活環境が悪化したことで、免疫力が低下した高齢者の間で肺炎やインフルエンザの発生が懸念されました。特に寒冷な気候と過密な避難所環境が、感染症のリスクを高めました。
3. 皮膚感染症
避難生活では、断水などでお風呂に入ることが叶わず、清潔な環境を維持することが難しいため、皮膚トラブルが発生しやすいです。
- とびひ(伝染性膿痂疹): 子供に多い皮膚感染症で、かゆみや痛みを伴う水疱や膿ができる。
- 癤・疔(せつ・ちょう): 汚れた環境や不衛生な状態で毛穴に細菌が入り込み、炎症を引き起こす。
- 白癬(水虫): 湿った環境での長期間の避難生活で、足などにカビが生じる。
平成23年台風第12号(2011年)では、浸水した地域では皮膚が泥水や汚染された水にさらされることで、皮膚炎や化膿性疾患が増加しました。
熊本地震(2016年)では、清潔を保つことが難しい避難所生活の中で、皮膚のかゆみや炎症を引き起こす皮膚感染症が多発しました。
4. 動物・昆虫媒介感染症
災害によって害虫や野生動物との接触が増える場合、これらを媒介とする感染症のリスクが高まります。
- デング熱: 蚊が媒介するウイルス性疾患で、発熱や関節痛、発疹が特徴。
- レプトスピラ症: 汚染された水や動物の尿から感染し、発熱や頭痛、筋肉痛を引き起こす。
西日本豪雨(2018年)では、大雨や洪水によって、汚染された水や泥に触れることで感染するレプトスピラ症の発生が報告されました。また、洪水後の停滞した水域では、蚊の繁殖が進み、デング熱や日本脳炎など蚊を媒介とする感染症のリスクが指摘されました。これにより、集中的な蚊の駆除や予防策が取られ、幸い大規模な感染拡大は報告されませんでした。
世界の被災地(とくに常夏気候の国々)では、一番恐れられている感染症が「デング熱」など、蚊を媒体にした病気です。致死率が高くしかも防ぐことが難しいため、多くの方が災害後に亡くなっています。
今後の温暖化などによって、日本にもデング熱などの蚊を媒体とした病気が増えてくる可能性もあるので、対策が必要になりそうです。
5. 食中毒
不適切な保存や調理が行われることで、細菌やウイルスによる食中毒のリスクが高まります。
- サルモネラ菌: 汚染された食品や水を介して感染し、下痢や発熱を引き起こす。
- ボツリヌス菌: 不適切に保存された食品で発生し、神経麻痺を引き起こす。
西日本豪雨(2018年)では、避難所や炊き出しでの食材管理が十分でなかったため、食中毒や感染性胃腸炎が発生。特に夏季の高温多湿な環境では、細菌の増殖が促進されるため、食中毒のリスクが高まります。
その他
感染症ではありませんが、避難所での長期間の狭い空間での生活によって血行障害が起こり、深部静脈血栓症が報告されました。災害後の「運動不足」による健康リスクの一つです。
感染症の主な発生要因
- 水や食糧の不足: 災害時に飲料水や食糧の確保が難しくなり、汚染された水や食品を摂取することが感染症の原因になります。
- 衛生環境の悪化: 下水道の破損やゴミの放置、トイレ不足などが、感染症の発生リスクを高めます。また、トイレを多くの人で使うことも感染症を広げる大きな原因になっています。
- 避難所での密集: 避難所では多くの人が密集して生活するため、空気感染や接触感染のリスクが上昇します。
- 清潔な水やトイレの不足: 手洗いや入浴ができないことで、皮膚感染症などが発生しやすくなります。
過去の災害を通じて、避難所や被災地での衛生管理が感染症対策の重要なポイントであることが明らかになっていて、さまざまな対策が取られています。
個人で取れる対策もあるので、ぜひチェックしてください!
個人でできる、有効な対策
1. なるべく「在宅避難」できるよう準備を整える
多くの感染症が「避難所」で起こります。
たくさんの人と暮らし、トイレを共有することになる「避難所生活」を避けることができれば、感染症対策には実は一番効果的です。
とくに災害時によく問題になる、ノロウイルスやインフルエンザの感染を防ぐには、集団生活を避けることです。
また、自宅でも清潔な環境を整えることができるよう、汚物を衛生的に処理できる災害用トイレなどの準備も必須です。
2. 食材の保存と調理方法に気をつける
とくに湿気の多い夏に被災した場合は、食べ物の調理方法や保管方法に気をつける必要があります。
在宅避難の人は、ガスコンロを用意しておくと温かい食事ができて便利です。ただ、基本的には調理したものや温めたものは「その場で、すぐに食べる」ようにしましょう。
避難所で配られたお弁当などを「今はお腹が空いてないから後で食べよう」と取っておく人がいますが、腐ってしまってお腹を壊したりすることもあるので、注意が必要です。
災害中の食中毒や下痢は、本当に辛いです。トイレも毎回並ばないといけないような避難所では、トイレを自由に使うこともできず、本当に大変な思いをすることになります。
3. 過酷な環境での寝泊まりに備える
いざ避難生活になってしまった時にも、夜に快適に睡眠を取れるようにすることが、健康にもつながります。
また、災害はいつ起こるかわかりません。熱帯夜が続くような真夏かもしれないし、凍えるような真冬かもしれない。真夏用にクーラーなしでも熱中症にならずに寝られるような「冷感敷きパッド」などを用意し、自分の住んでいる地域が寒冷地なら、暖房なしでも生きられpるよう、なるべく体を温かくする備えを多めにしておきましょう。
また過去の災害を見ても、寒冷地や寒く乾燥した真冬の災害時は感染症が広がりやすいです。
4. 定期的な手洗いや消毒を行い、密集しすぎないように心がける
断水していて手洗いができない場合に備えて、消毒できるアルコールや、消毒ウェットティッシュを個人でもなるべくたくさん準備しておくことをおすすめします。
また、人がたくさん密集しているところには行かないようにするのも感染症予防には効果的です。
以上、災害発生時に避難生活中に気をつけたい感染症についてでした!
「感染症対策」という視点で見ると、用意すべきもの、備えるべきものも変わってきます。ぜひ参考にして、自分なりに感染症対策ができるように備えておきましょう!