避難所の仮設トイレで広がる感染症と、対策
避難生活ではどうしても「トイレを通して発生する感染症」との危険と隣り合わせです。
過去の災害などで発生してきた感染症については、別の記事でまとめました。→参考:『災害時、避難生活で気をつけたい感染症』
この記事では、その中でも「トイレで広がる感染症」にスポットライトを当ててみます。
病気が仮設トイレで広がる仕組み
災害時の仮設トイレは、たくさんの人が使うので、すぐに汚れてしまいます。
清掃や排泄物の処理が頻繁に行われないと、トイレ自体が感染症の温床になってしまうことがあります。
トイレの座面やドアの取っ手など、みんなが触れる部分に細菌やウイルスが付着しやすいです。特にノロウイルス、風邪、食中毒などは、トイレから感染することが多いです。
災害時には、多くの人が疲れていたり、体力が落ちていたりするので、感染症にかかりやすくなります。特に子どもや高齢者、免疫力が低下している人たちは、こうした環境で感染症にかかりやすいのです。
さらに、断水されていて十分に清掃できないことや、災害後のバタバタで清掃が追いつかないことなどが原因で、トイレ環境はとても悪い状態になってしまうこともよくあります。
特に気をつけたい感染症
1. ノロウイルス
一番気をつけたいのが、お馴染み「ノロウイルス」です。
感染力が非常に強いのが特徴で、嘔吐や下痢を引き起こし、高熱が出ることも。
今までの災害でも、多くの避難所で集団感染が報告されています。
トイレを自由に使えない環境で、ノロウイルスに感染してしまったら…想像したくもないほど辛い体験です。
よくある原因
仮設トイレの取手などからの「接触感染」に加え、嘔吐物や便の飛沫を吸い込む「飛沫感染」などで広がっていきます。
大勢の方が一日中トイレを使っているので、一度感染者が出てしまったら、感染力の強さも相まって、感染拡大を防ぐことはとても難しいです。
2. インフルエンザ
冬の災害で、避難所での集団生活などでとくに感染拡大が怖れられている病気の代表格が「インフルエンザ」です。
気道感染症ですが、重症化しやすく、酷い高熱や頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感等の症状が比較的急速に現れるのが特徴です。
ノロウイルスと同じく、感染力も強く、症状もとても辛いです。
インフルエンザを最速で治す方法は、発症後48時間以内に病院で抗インフルエンザウイルス薬を処方してもらことですが、災害直後だとこのような薬を手に入れることが大変な場合もあります…。
よくある原因
飛沫感染と、接触感染(ウイルスに汚染されたモノを触った手から、目、口、鼻などの粘膜に感染)両方あり得ます。トイレの取手などからの接触感染が多いです。
3. 風邪
インフルエンザほど重症化しやすい病気ではなくても、多くの人が同じ空間で暮らすため「風邪」の感染もよく聞きます。
特に免疫力が低下している高齢者や乳幼児に注意が必要。
避難生活中でも、なるべく人混みは避けた方が良さそうです。
冬季の寒くて乾燥している環境で、避難所の暖房がしっかり機能していない場合は、重症化して肺炎などになってしまうこともあり、特に高齢の方は注意が必要です。
よくある原因
せきやくしゃみによる飛沫感染が多いです。またこちらもトイレなどで接触感染も原因になります。
4. 食中毒
「トイレから、なんで食中毒が?」と不思議に思えるかもしれませんが、仕組みはこうです。
仮設トイレの衛生状態が極端に悪化していると、ハエなどの羽虫が群がり、そのハエが今度は便のついた足で食べ物に接触します。そうすると、食中毒が起こる可能性もあります。
ただ虫経由の感染は日本の避難所ではほとんど見られず、単純に、食べ物が古くなってしまったり、傷んでしまったことが原因で食中毒になることの方が多いです。
有効な対策
1.「トイレのあとはしっかり消毒」を徹底しよう!
「トイレのあとは手洗い」を、徹底することが普段よりずっと大切です。
「汚物の飛び散り」が原因のパターンや、ノロウイルスのような「飛沫感染」が起こる場合だと、個人の努力で防ぐのがかなり難しいのですが、それでもドアの取手などからの「接触感染」に関してはしっかり手を消毒することでかなりリスクを抑えることができます。
水が使えない環境が多いので、アルコール消毒スプレーや消毒ウェットティッシュが役に立ちます。アルコールで肌がかぶれやすい人は、子供用のアルコール不使用の消毒ウェットティッシュなどを用意するといいかもしれません。
避難所生活を送る可能性のある人は、消毒スプレーや消毒ウェットティッシュを個人でたくさん用意し、避難バッグに入れておくことをおすすめします!
2. 「在宅避難」できるように準備しよう
また、なるべく仮設トイレを使わないで済むように準備するのも大切です。
つまり、家に必要なものを備蓄して「在宅避難」の準備をするということです。
避難所のトイレについては、感染症リスク以外にも、「好きな時に行けないこと」や「長蛇の列」、「仮設トイレ特有の悪臭」など、ストレスがとても多く、実は自宅のトイレを使えるというメリットはとても大きいし、住み慣れた我が家で過ごせる安心は大きいです。
そして、たくさんの人とトイレを共有することになる「避難所での共同生活」を避けることができれば、感染症対策には一番効果的です。
とくに、ノロウイルスは、トイレでの飛沫感染で簡単にうつってしまうので、過去のどの災害時にも大きな問題になり、多くの被災者が苦しんできました。
災害後、少しでも安心して健康に過ごせるように、自宅に汚物を衛生的に処理できる「災害用トイレ」などの準備を整えていきましょう!